0. おことわり
この記事は、AmusementCreators Advent Calendar 2017 の 12 月 12 日の記事です。
1. はじめに
今や、CD という円盤は時代の流れに取り残されてしまった記録媒体なのかもしれない。
時は平成 29 年。平成の終焉の見えた現代社会には、光ファイバ回線による高速通信が普及し、数 GB もあろうかという巨大なファイルさえも、いとも簡単にダウンロードできる時代となってしまった。
もう数年前のことになるが、Microsoft Office を量販店で購入した時はたいそう驚いた。
ついぞ Office までも CD や DVD メディアを用いたパッケージ販売をやめ、ダウンロードカードの販売に移行してしまったというのである。
CD 1 枚の記録容量であるところの 700MB のダウンロードが文字通り「破滅」を意味していた時代から、我々の世界の技術は大きな躍進を遂げたのだ。大いに喜ばしいことであると言えよう。
最早、世間はダウンロードカード隆盛の時代である。こんなご時世、CD や DVD の活躍する場面などと云うのは……
否、確かに存在する。
「同人ソフト」の世界、特にコミックマーケットや同人誌委託取扱店における頒布では、未だに CD や DVD が現役なのである。むしろ、ダウンロードカードとメディアパッケージを並べて置いておくと、メディアパッケージの方ばかりが飛ぶように売れる世界なのだ。
一定以上の規模の同人サークルともなれば、CD の作成は基本的に業者任せ(それも単純な CD コピーではなく、CD プレスである場合が殆ど)だ。
しかし、一定未満の規模のサークル、あるいは特殊な事情や信念のあるサークルは、CD を自前で焼成することに強く拘っている。筆者が代表を務める同人サークル MATYLA も、筆者が大学時代に所属していたゲーム制作サークル AmusementCreators も、いずれも設立当初より一貫して自前で CD を焼成している。
時代の流れを物ともせず、ただ無心に CD を焼く者達の信念を、そして根性を、ここに記しておこうと思う。
2. なぜ CD を自前で焼くのか
柄にもなくポエムっぽいものを書いてたら疲れた。というわけで普通の文体で書き進めていきます。
CD プレスを業者に頼めば楽ができるのに、何故 CD を自前で焼成することにこだわるのか。その答えは至極単純です。
2-1. そもそも自前で焼いた方が安いから
まずは代表的な CD プレス業者の価格表を見てみましょう。
http://www.inv.co.jp/~popls/ryokin/CDVDpress/cd080501.html
盤面印刷込みとはいえ、300 枚では 1 枚あたり 165 円が最安。500 枚では 1 枚あたり 99 円、1000 枚では 1 枚あたり 50 円という価格になりますが、1000 枚以上となると流石に自前で焼く方はあまり居なくなります。
かなり安いところでも、こんな感じでしょうか。
http://www.press-station-international.com/modules/pico/index.php?content_id=7
最初の業者と同様に盤面印刷込みの価格で、100 枚では 1 枚あたり 210 円、300 枚では 1 枚あたり 72 円。500 枚では 1 枚あたり 44 円、1000 枚でようやく 1 枚あたり 22.5 円という価格になります。
次に、amazon 辺りで売っている適当な CD-R メディアの価格を見てみましょう。
https://www.amazon.co.jp/dp/B00EUT8TZA/
なんと 1 枚 20 円。盤面印刷可能なインクジェットプリンタを利用すれば、インク代込みで 1 枚あたり 50 円程度で CD を 1 枚用意することができるのです。
合計生産数が 300 部未満の小部数ともなれば、価格差は一目瞭然です。CD プレス業者に発注すると最低でも 2~3 万円、業者によっては 5 万円ほど必要なところを、自前で CD 焼成・盤面印刷まで行うことにすれば(枚数 * 50)円で済んでしまうのです。300 部作ることにした場合でも材料費は 15,000 円と、安いプレス業者に出すよりも圧倒的にコストを抑えることが出来ます。
2-2. 頒布直前まで作業ができるから
業者による CD プレスは、一般的にデータ入稿から納品までかなりの期間を必要とします。概ね 2 週間で済めば良い方で、国外(主に台湾)プレスの場合は、価格の安さと引き換えに 1 カ月ほどの納期を必要とすることがほとんどです。
例えば年末の冬コミの場合、CD プレスを間に合わせるにはどんなに遅くとも 12 月中旬にデータを完成させなければなりません。業者によっては、11 月末にデータが完成していないとアウトというところもありますから、かなりタイトな制作スケジュールが要求されるという問題があります。
勿論、事前に判明している入稿締切日に合わせてマイルストーンを綿密に立て、その通りに開発を進めることができるならばそれ以上に良いことはないのですが、人間というのは意志の弱い生き物でございますから、大体うまくいかないのです。
自分で CD を焼く場合、データ入稿に「締切」という概念はありません。もし、イベント前夜に作業時間を山ほど取ることが出来るのであれば、最早「当日」の深夜 3:00 頃にデータが完成しても大丈夫。急いで CD を焼き始めれば、大体の場合はイベントに間に合わせることが可能です。CD ドライブの数さえ揃えておけば、イベントに向けて家を出る前に 200 枚ほど焼くのは造作もないことでしょう。
最近はダウンロードカードの隆盛で、この手の理由で CD を自前で焼く人は減ってきたように思えますが、ダウンロードカードよりしっかりした形で作品を出したい開発者にとっては、やはり CD を自前で焼くというのは欠かせない行為となりましょう。
というわけで、頒布直前まで作業を続けたいという根性のある方には、CD の自前焼成は根強い人気を誇ります。
2-3. CD を焼くことに喜びを感じるから
CD を焼くということは、至上の喜びです。CD スピンドルを手に持った時の重み、盤面の輝き、スピンドルから発せられる独特の咆哮、CD を焼くドライブの轟音、何もかもが、CD を焼くという行為を通してでしか味わえないものです。
CD を焼く人、所謂「焼き屋」にとっては、このような喜び 1 つ 1 つの全てが、CD を焼き続ける理由となっているのです。
3. 焼き屋存亡の危機
忘れもしない 2015 年 6 月のこと。当時日本国内で唯一 CD メディアを製造しており、非常に品質の高いメディアを製造していることで有名だった「太陽誘電」が、同年末で光学メディアの新規生産を終了することを発表したのです。
当時、国外メーカーの CD の品質は太陽誘電ほど高くなく、「これからどのメーカーの CD に焼けば良いのか」と嘆く焼き屋も少なくありませんでした。
今では「太陽誘電のスタンパー設備を引き継いで生産されている CD」などが発売されており、太陽誘電ロスは当時ほど悲痛なものではなくなったように思えます。品質は確かに高く、今まで太陽誘電製のメディアを使っていた焼き屋にも満足のいく仕上がりと言えるでしょう。しかし、細かい点では盤面の色の選択肢がなかったり(太陽誘電時代には、盤面がシルバーでプリンタブルな製品があり、印刷すると独特の色味が出ることから、これを選んで利用するユーザーも数多く存在しました)、使用されている色素がかつてのものと異なっていたり、スピンドルの形状がかつての太陽誘電の独特の形状ではなかったりと、コアなユーザーには若干の不満が生じる仕様となっているのも、また確かなことです。
3-1. 太陽誘電メディア価格の爆騰
さて、2015 年末の太陽誘電のメディア生産終了以降、amazon ではどのような価格の暴騰が起きたのか見てみましょう。
このように、2015 年時点と比較すると、現在の価格はなんと 5 倍以上。昨今の仮想通貨の値動きほど急ではないものの、2015 年末までの価格の安定感からは想像もつかない爆騰具合を見せています。
流石にもうダメか、私も今抱えている在庫がなくなったら、おとなしく CMC あたりの製品に流れるしかないのか。
3-2. 見よや焼き屋のド根性
スーパーロボット大戦シリーズではおなじみ、HP を全回復する精神コマンド「ド根性」。
あったら買うよね。焼き屋のド根性ここに極まれり、まだあと数年は持ちます。
多分値付けを間違えたのではないかと思います。倍でも売れるでしょこれ。
4. おわりに
製品版くらいは軽率に CD プレスができるだけの資金力が欲しい人生でした。
いや、そんなこと言い出すと締め切りがめっちゃ早くなるのでマジで勘弁してください。自分で CD 焼きますから。ねえってば。
これからも暫くは焼き屋を続けていると思いますが、暖かく見守って下さると幸いです。
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